今年発売されるスマートフォンに続々と搭載されるノッチについて考察する
皆さん、今年のMWC( Mobile World Congress )のニュースは見ましたか。やっと上下ベゼルを削ってスタイルもガラッと変えてきたXperiaシリーズや、今やアップルと毎年デッドヒートを繰り広げているSamsungのフラッグシップモデルGalaxy S9/S9+の発表など今回も我々スマホファンを楽しませる話題が目白押しでしたね。
そんな中、今年発表されたいくつかの端末の中で共通の変化を見ることができました。
はい、ノッチです。通称”切り欠き”です。
今はもう見慣れた感がありますが昨年鳴り物入りで全面刷新されたiPhoneの新型モデルiPhoneXで現れたあいつです。
画面の占有面積を極限まで高めるためインカメラやセンサー部分だけを本体前面上部に残した結果、上のベゼルからせり出したあの黒いやつ。
今年の他社から発表された端末に続々とそのノッチが搭載されています。
日本のガジェット系ニュースでも取り上げられたZenfone5もノッチ組の代表的なものの一つですね。
他にもこのようにノッチを嘆く記事も多く見られます。
案の定MWC 2018で大量発生した「ノッチフォン」は単なるモノマネでデザインに思想が感じられないのが残念 - Engadget 日本版
この流れ、やはり皆さんは冷めた目で見ていますか?
私の最初の反応としては、「ベゼルは多少あっても良いから画面にせり出す部分は無くしてくれー」でした。
ただ、一方で何故これほどまでにiPhoneXの真似とも言えるような端末が増える状況になっているのでしょうか?
私の頭によぎったのはこの4つのワードでした。
「リーダー」「チャレンジャー」「フォロワー」「ニッチャー」
これは競争地位の戦略を考える際に使う概念なのですが、今のノッチに沸くスマートフォン業界を見てみるとこれが良く当てはまる気がするんです。
メーカー別の販売台数ではSamsungにトップを譲るiPhoneですがその圧倒的なブランド力を背景とした売上額、そしてApp StoreをApple単体で運営しアプリケーションの売上をも飲み込む収益力は他の追随を許しません。正にスマートフォン業界の「リーダー」と言えますね。むしろ絶対王者の風格さえ感じられます。
そして次点に来るのがやはりSamsungです。昨年から一気に様々なフラッグシップ端末でも採用され始めた有機ELディスプレイを生産しているのがこのSamsungです。Samsungは常にiPhoneを意識して端末を(とりわけSシリーズ)を市場に提案してきました。初期の頃はAppleと世界中で訴訟合戦を繰り広げていましたね。まぁiPhoneと瓜二つのような見た目でしたからね。今のSamsungはデザインや機能をiPhoneに似せるどころか我が道を進んでいます。エッジディスプレイやいち早く防水に対応したこと、Noteシリーズのようにコアなファンを惹きつけるシリーズなど独自の強みを磨いてきました。このSamsungは正にAppleに挑戦し続ける「チャレンジャー」と言えるでしょう。もちろん販売台数だけ見るとSamsungの勝ちですが、売上金額ではAppleの足元にも及ばないのです。
Apple iPhone Takes Huge 51 Percent Share of Global Smartphone Revenues in Q4 2017
Samsungだってバンバン安いのを沢山作って売るよりも高価なものを沢山作って売りたいはずなので、当然iPhoneの高付加価値なモノづくりにどうやったら勝てるかを考えているはずです。その結果現在ではiPhoneの追従をするのではなく独自性を強めています。
そしてその後に続く「フォロワー」と「ニッチャー」。ここが正に今回のミソとなります。
私はSamsung(もしかするとHuawei も)以外はこの「フォロワー」と「ニッチャー」だと考えています。
彼らは単体ではシェアを奪えるほどのブランド力や開発力、資金力を持ち合わせていないので限られたリソースの中でいかに稼ぐかを考えなければいけません。あるメーカー(またはシリーズ)はフォロワーになって流行に乗り遅れないようにAppleやSamsungのやっていることを取り入れたり、またあるメーカー(またはシリーズ)では上位2強が力を入れていないカテゴリーやセグメントに対してニッチな端末を提供するニッチャーになるしかないと考えられます。
そのフォロワーまたはニッチャーにiPhoneXと見間違える程に似せてきたZenfone5を発表したASUSのような企業が入るのだと思います。Zenfone3 Ultraのようにマス向けではなくコアな消費者向けに端末を開発するのもまたこのポジションの企業だからこそできることです。ですがやはりある程度売上を狙うためには大手の追従もしつつ消費者に選んでもらえるように品揃えをする必要がどうしても出てきますよね。
スマートフォンで重視される性能、カメラ、デザイン、価格などの何れかでiPhoneに勝てる部分、並べる部分、切り捨てる部分を明確にしていき、「利幅は小さくなるが価格はここまで頑張ろう」「デザインではここをオマージュして高級感や流行りを取り入れよう」「ここは割り切って切り捨てよう」という判断をしてるものと思います。
その結果、iPhoneXにそっくりなノッチをあえて搭載してきた端末がポツポツと出てきたのでしょう。
ノッチ…日本語で言うところの様式美的な側面もあるかと思います。非合理的ではあるがやることで満たされる変な心理が働くことってありますよね。ノッチに関して言えばAppleがやってるならクールなことなんだ的な(消費者側の心理)。ある種の免罪符をAppleがスマホメーカーに与えたとも言えるのではないでしょうか。丁度イヤフォンジャックをiPhone7発売以降から各社無くしてきたのも一例かと思います。
どうみても画面に割り込んできてるし邪魔くさい存在のノッチがあっても許されることをAppleが証明してると。フォロワーやニッチャーにとっては「よっしゃ!画面占有率下げるのにあの悪手も許されるようになったぜ!むしろクールだと思われてんのかよ!」と内心諸手を挙げて喜んでいるのかもしれません。
一言で言えば、AppleのiPhoneXかっこいい(と消費者が思っている)から、そこを狙って皆んな真似してるんじゃないかな。ってところです(当たり前の帰結〜!)。しかもiPhoneXが高すぎて販売計画下回ってると言われてますからね。なら安価でiPhoneXのような外観の端末が手に入るとなれば消費者は選ぶだろうという魂胆。
恐らくですが、この戦略は正直そこそこ上手くいくと思います。
考察は以上です。
これは私の妄想ですから真実は分かりませんが、何れにしてもマーケットとしてもガジェットとしてもある程度成熟してしまい今後短期的には大きな進化をそれほど望めない現在のスマートフォン業界において各社が性能面だけでなくデザインまでもパクリ始めたことに「開き直り」や「やけくそ感」を感じた私は、これはそろそろ限界を迎えた世界的な大手のスマホメーカーの撤退や吸収合併などが見られる予兆なのではないかと昨今の流れを訝しく見ています。健全な競争が行われている中で自然淘汰されるメーカーも当然出て来るとは思いますが、スマホ好きな私としては金太郎飴のようなスマートフォンではなく独自性の強いスマートフォンが今後も出てくることを願っています。